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ここ数日、サッカー産業関連のニュースを眺めていて目が止まった話がありました。
リバプールFCのオーナーであるフェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)が、株式の30%をアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が参加するコンソーシアムに売却したというニュースです。
世界屈指の富豪の一人がサッカークラブに関わったこと自体も話題でしたが、現役マーケターの立場としてはもう一つ気になる点がありました。
これほどの規模の取引が成立してもなお、「アンフィールド」というスタジアム名だけは今回も交渉のテーブルに乗らなかったという点です。
取引の内容を整理するとこうなります。
FSGは8月14日、リバプールの株式30%をアミット・バティア氏率いる「1892ホールディングス」コンソーシアムに16億5000万ポンド(約3兆2000億ウォン)で売却することを決定しました。
CNBCの報道によれば、このコンソーシアムにはベゾス氏が最大出資者を務めるベンチャーキャピタルK5スポーツや、フェイスブック共同創業者エドゥアルド・サベリン氏の家族投資会社も名を連ねています。
今回の取引で評価されたリバプールの企業価値は55億ポンドに達します。
ただしFSGは株式70%をそのまま保有し、クラブの経営権も引き続き行使します — 株式は分けても経営権まで手放す売却ではないということです。
バティア氏は新副会長として理事会に加わる一方、ベゾス氏本人は理事会の席を受け取らなかったという点も、今回の取引の興味深いところでした。
ところで「アンフィールド」という名前自体がどこから来たのかを調べてみると、なぜここまで守ろうとするのか少し理解できました。
アンフィールドは特定の人物や企業の名前ではなく、リバプール北部のある地区の地名です。
ウィキペディアの説明によれば、古英語と中英語の単語が組み合わさって「傾斜した野原」という意味になり、少なくとも1642年からこの地域を指す名前として使われてきたといいます(19世紀のアイルランド移民が故郷の地名にちなんで付けたという説もあります)。
スタジアムの歴史は1884年、エバートンFCがジョン・オレルという地主からこの土地を借りて球場を建てたことに始まります。
ところが1892年、クラブ運営方式をめぐってエバートン委員会と地主ジョン・ホールディング氏が対立し、エバートンが新球場(グディソン・パーク)へ移転すると、ホールディング氏は空いた球場で新たなクラブを作って使い続けました。
そうして誕生したクラブが、今のリバプールFCです。
つまりアンフィールドはリバプールというクラブよりも先にあった地名であり、クラブはその土地に間借りする形でスタートしたわけで、そもそも「誰かの一存で売り買いできる名前」ではなかったということになります。
ファンがこの名前をスポンサー名に変えることに特に敏感なのは、こうした背景があるからのようです。

ザ・コップ・スタンド外観 · 出典: Wikimedia Commons(Rept0n1x撮影), CC BY-SA 3.0
観客動員とチケット
アンフィールドは2024年、アンフィールド・ロード・スタンドの増築工事を終えて収容人数が6万1276席に増えました。
増築前は約5万4000席規模だったので、7000席近くを新たに増やした計算になります。
この影響でプレミアリーグのホームゲーム観客動員記録も塗り替えられ、2024-25シーズンには1試合で6万420人が入場したこともあります。
ただし1952年のFAカップの試合で記録された歴代最多観客6万1905人にはまだ及びません。
国内のスポーツ会場で1試合6万人という光景は見られるでしょうか。本当に驚くべき規模です。
興味深いのは、座席数が増えたにもかかわらずチケット入手はむしろ難しくなったという点です。
リバプールは一般販売の代わりに「オール・レッド・メンバーシップ」(Full・Light・Junior等級)を通じてのみ、シーズンホームゲームチケットへの応募資格を与える仕組みを維持しています。
2026-27シーズンからは若年層割引の対象年齢が21歳から24歳に広がる変更がありましたが、メンバーシップなしで正規ルートからチケットを入手するのは依然として事実上不可能というのが、海外のサッカー観戦記に共通する説明です。
シーズンチケット価格はメインスタンド最高931ポンドからコップスタンド外側最低734.5ポンドまで、通常のマッチデー入場券は最高62.75ポンドから最低31ポンドまで設定されています。
クラブが意図的に供給を絞ることで、希少性そのものをブランド価値として管理している印象を受けました。
広告インベントリとスポンサーシップ
リバプールのメインスポンサーは引き続きスタンダードチャータードです。
2022年に延長した現契約は2026-27シーズンまで続き、年間約5000万ポンド規模とされています。
ただしこの契約が終了する2027年を前に、新たなメインスポンサーを探しているとの報道が最近出ており、市場が見積もる適正価格は年6600万ポンド前後とされています。
小売スポンサーは2023年から契約しているエクスペディアで、年間約1200万ポンド規模です。
ユニフォームサプライヤーは2025-26シーズンからナイキからアディダスに変わり、5年契約で年間6000万ポンド以上とされています。
1985~1996年、2006~2012年にもアディダスと契約していたことを考えると、13年ぶりの再契約ということになります。
ところが肝心のスタジアムそのものの名前は、いかなる形でも売却していません。
アンフィールド・ロード・スタンドを新設する際、クラブの商業担当役員がネーミングライツ(施設に企業名を付ける権利)を含むあらゆる可能性を検討したと語ったことはありますが、実際に出た結論はスタンド全体ではなく、ラウンジや特定エリア程度の部分的な命名権のみが検討対象だったというものでした。
トッテナムの本拠地がスポンサー名なしで「トッテナム・ホットスパー・スタジアム」という自社ブランドで運営され、マンチェスター・シティのエティハドやアーセナルのエミレーツのようにスポンサー名をそのまま冠した事例もあるプレミアリーグの中で、アンフィールドはあえて言えばそのどちらの方式とも距離を置く道を選んだことになります。

増築されたアンフィールド・ロード・スタンド · 出典: Wikimedia Commons(FYI2023撮影), CC0(パブリックドメイン)
商品(MD)とグローバル店舗
アンフィールド近くにはリバプール公式グッズショップ(LFCストア)があり、ユニフォームやグッズを販売していて、マッチデーでなくても午前9時から午後5時まで営業しています。
ユニフォームに名前と背番号を入れるパーソナライズサービスも常時提供されています。
注目すべきは、この店舗事業を海外へと広げ続けている点です。
最近は香港に新店舗をオープンし、これで世界の単独店舗数が20店に増えたといいます。
スタジアム内の一店舗を運営する水準を超えて、ブランドそのものを海外の小売チャネルとして輸出していると言えます。

アンフィールド近くのリバプールFC公式グッズショップ · 出典: Wikimedia Commons(Phil Nash撮影), CC BY-SA 4.0
放映権と地域経済効果
プレミアリーグは2025~2029年の新放映権サイクルで、国内(英国)放映権だけで4年総額67億ポンド(スカイ・スポーツ・TNTスポーツ)で売却し、海外放映権はシーズンあたり21億7000万ポンド規模に増えました。
国内外を合わせたリーグ全体の放映・商業収益は、このサイクルで前回より17%増の122億5000万ポンドに達するといいます。
この資金が20クラブに分配される仕組みなので、近年成績の良いクラブほど取り分も大きくなります。
実際に2024-25シーズンのリバプールは売上7億300万ポンドでクラブ史上最高額を更新し、このうち放映権を含むメディア収益だけで前年より6000万ポンド増の2億6400万ポンドとなりました。
地域経済効果についてはやや古いデータですが、参考になる数字です。
2017-18シーズン基準の調査では、リバプール市外から来た観客がそのシーズンだけで1億200万ポンドを地域経済に直接使い、関連産業への波及効果を加えるとさらに1億800万ポンドが発生したといいます。
当時よりアンフィールドの収容人数が7000席近く増えた今は、この数字がさらに大きくなっていると推測されますが、最新の数値はまだ確認できていません。
アンフィールドならではの象徴 — コップとYNWA

試合中に旗を広げるザ・コップのファンたち · 出典: Wikimedia Commons(Tobias Barkskog撮影), CC BY 3.0
アンフィールドを語るうえで欠かせないのが「ザ・コップ」(The Kop)です。
1906年に建てられたこのスタンドは、南アフリカのスピオン・コップの丘での戦いから名前を取ったもので、今ではリバプールのファン文化そのものの象徴となっています。
6万人近い観客が声を合わせて歌う「You’ll Never Walk Alone」は単なる応援歌を超えてクラブのアイデンティティとして定着しており、実際にアンフィールドはスカイベットのファン投票で3年連続プレミアリーグ最高の雰囲気のスタジアムに選ばれています。
現地の観戦ブロガーたちの記事を見ると、キックオフの3~4時間前からスタジアム周辺の通りがすでに赤に染まり、パブから流れる歌声とストリートフードの匂い、人混みが入り混じる光景自体が試合に劣らない見どころだという説明が多く見られました。
ただ同じ観戦記では、アンフィールドの内部は完全キャッシュレスでカードやタッチ決済のみ対応、食べ物もミートパイのような伝統的なスタジアムメニュー中心なので、華やかなグルメは期待しにくいという話も併せて語られていました。
マーケターの視点で見ると、商品・スポンサーシップ面ではひたすら規模を拡大しながらも、肝心のスタジアム内の「体験」だけはあえて華美に飾らない道を選んでいるわけで、これこそがアンフィールドというブランドが今まで守ってきたアイデンティティなのではないかと感じました。
KBO・Kリーグとの比較
今回の株式売却で最も目を引くのは、株式30%という大きな取引をしながらも、スタジアム名やクラブのアイデンティティに関わる部分は徹底して守り抜いたという点です。
韓国のプロ球団の多くは親会社がクラブと球場の名前に自社ブランドを直接付ける構造のため(大邱のサムスン・ライオンズ・パークや仁川のSSGランダースフィールドなど)、アンフィールドのように「名前を一切売らない」という選択肢自体が成立しにくいのが実情です。
国内であえて似た事例を探すなら、親会社を持たず外部スポンサーが球団名に対価を支払うキウム・ヒーローズ程度ですが、これも「球場」ではなく「球団名」のスポンサーであり、アンフィールドの事例とは性質が異なります。
チケット政策も対照的です。
KBOやKリーグはアクセスのしやすさを高めて観客の裾野を広げる方向に重きを置く傾向がありますが、リバプールは逆にメンバーシップという参入障壁を設けて希少性を管理し、ブランド価値を守る道を選びました。
どちらが正解というよりも、すでに世界中にファン基盤を確保しているクラブと、国内市場でファンを増やし続けなければならないクラブが、それぞれ異なる戦略を取るのは自然な結果だと感じました。
ただ、アンフィールド近くのグッズショップを海外20店舗にまで広げたように、国内球団もすでに確保したファン層を商品・ライセンシング面でさらに積極的に拡大する余地はありそうです。

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