ホーム > マーケターインサイト > LAクリッパーズ本拠地インテュイト・ドームレビュー — AIスタジアムの現状とkt wizの挑戦

LAクリッパーズ インテュイト・ドーム

LAクリッパーズ本拠地インテュイト・ドームレビュー — AIスタジアムの現状とkt wizの挑戦

全63件中18件目
GT
サイト運営者が直接執筆するプロスポーツマーケティングインサイト2026-07-20 · 閲覧 287
📱 カードニュースで見る
カードニュースで見る - 1 カードニュースで見る - 2 カードニュースで見る - 3 カードニュースで見る - 4 カードニュースで見る - 5

LAクリッパーズの本拠地であるインテュイト・ドームを見てきました。

今回のポストは他の球場レビューとは少し趣を変えて、この球場一つをAI技術とデジタルイノベーションというテーマに絞って扱ってみようと思います。15年以上マーケティング現場にいる中で「AIスタジアム」という言葉を何度か聞いてきましたが、実際にその概念をこれほど完成形に近い形で実装している球場はインテュイト・ドームが初めてであり、最高でした。

インテュイト・ドーム全景

インテュイト・ドーム — AIを前提に建てられた新球場

インテュイト・ドームは2024年8月に開場した新しい球場で、アメリカ・カリフォルニア州イングルウッドにあります。

特徴的なのは、この球場がNBA史上初めて他チームと共有せず、クリッパーズ単独で使用するために最初から新築されたという点です。オーナーが私財を投じて全額出資したとされ、建設費だけで日本円にして2兆円を超えると言われています。

観客席は1万8千席規模で、他のNBA球場よりむしろ小さい方ですが、その分一席一席の密度や体験により投資している印象を受けました。球団が最初から掲げたコアバリューも「ファン中心」「技術革新」「持続可能性」の三つでした。

インテュイト・ドームは2024年8月に開場した新しい球場で、アメリカ・カリフォルニア州イングルウッドにあります。特徴的なのは、この球場がNBA史上初めて他チームと共有せず、クリッパーズ単独で使用するために最初から新築されたという点です。球団オーナーのスティーブ・バルマーが私財で全額出資したとされ、建設費だけで日本円にして2兆円を超えると言われています。観客席は1万8千席規模で、他のNBA球場よりむしろ小さい方ですが、その分一席一席の密度や体験により投資している印象を受けました。球団が最初から掲げたコアバリューも「ファン中心」「技術革新」「持続可能性」の三つでした。

インテュイト・ドーム外観

ヘイローボード — 死角をなくした360度電光掲示板

最も象徴的な設備は「ヘイローボード」と呼ばれる電光掲示板でした。

競技場の天井全体を360度で取り囲む両面LEDスクリーンで、面積は4千平方メートルを超え、LED素子だけで2億個以上使われているそうです。

わざわざ観客席のあちこちに移動して画面の見え方を自分の目で確認してみましたが、コート反対側の端に座っても画面が途切れたり首を曲げる感じなく自然に視界に入ってきました。

従来の球場はコート両端にだけ電光掲示板を掛けていたため座席位置によって視界に死角が生まれるのが当然でしたが、この球場はリング形の電光掲示板を観客席の上どこからでも見えるように設計して、その問題自体を構造的に取り除いてしまいました。

マーケターの観点から見ると、これは単なる電光掲示板のアップグレードではなく、広告露出面とファンの視野角という古くからあるトレードオフ自体を再設計した事例でした。

インテュイト・ドームのヘイローボード360度電光掲示板

「ザ・ウォール」と参加型シート設計

座席設計も徹底的にファンの参加を前提にしていました。「ザ・ウォール」と呼ばれるエリアはアウェイチームのベンチのすぐ横に51列が途切れず続くクリッパーズ熱狂的ファン専用の座席で、サッカーファンなら馴染みのあるドルトムントの「イエローヴァール」から着想を得たと聞きました。

普通の座席に実際に座ってUSB-C端子にスマホを差し込んでみたり、座席横の照明ボタンを押してみたりしましたが、ささいな装置でもつい手が伸びるのが不思議でした。ゲームコントローラーが内蔵された座席もあり、試合の合間に短い参加型イベントを楽しめるようになっていて、こうした細部が観戦を受動的な鑑賞ではなく常に何かに参加する体験へと変えていると体感できました。

インテュイト・ドームの参加型シートとUSB-C端子

ノーペーパー入場 — 顔認識とバイオメトリクス

本当に「AIスタジアム」という言葉を実感したのは入場方式でした。

顔認識とバイオメトリクス技術を適用してチケットと決済をすべて紙なしで処理する「ノーペーパー」構造に設計されており、実際にゲート前に立って顔を認識させて通過するまでの時間は体感で2〜3秒ほどでした。財布や携帯を取り出す必要すらないのは初めは少し違和感がありましたが、二度三度繰り返すとむしろチケットを探してごそごそしていた昔のやり方が面倒に感じるほどでした。

CCTVとマルチメディアシステム全般にAIが敷設されていると言われ、こうして集まったパーソナライズされたデータは再びマーケティングに使われ、座席コントローラーとアプリを連動させてリアルタイムでファンの参加を促す構造につながります。F&Bも「310プロビジョン」というレストランでセルフ決済でドリンクを一つ買ってみましたが、列に並んだりスタッフを待ったりする時間なく非接触で即処理され、待ち時間をほとんど感じませんでした。

インテュイト・ドームの310プロビジョン セルフ決済店舗

持続可能性を示すディテール — 垂直農場

スタジアムの動線の片隅には小さな垂直農場がガラスの陳列棚の形で展示されていて、カーボンニュートラルという球場の持続可能性の価値を目に見える形で実現した装置でした。華やかな技術の話ばかり見てきた後にこうした細部を見ると、この球場がAIと技術を前面に出しつつもファン体験全体のトーンを丁寧に管理しているという印象を受けました。

kt wizとの比較 — 異なる出発点、同じ方向

実は国内でも「AIスタジアム」という概念を最初に、そして最も積極的に打ち出した球団があります。韓国のプロ野球チーム、kt wizです。

kt wizは2025シーズンから「AIと野球の出会い」をテーマに国内プロスポーツ初のAIスタジアムを掲げ、リアルタイムで観客混雑度や安全状況を分析して電光掲示板に案内するシステムや、外国人観客向けの英語アプリなどを導入しました。

2025シーズン開幕戦のハンファ・イーグルス戦ではドローンショーのようなイベントで話題を呼んだこともありました。伝統的に開幕戦でITを活用した無人始球式を続けています。こうした試みが業界でも評価され、ktスポーツは2025年12月の第21回大韓民国スポーツ産業大賞で国務総理表彰を受賞しました。2019年の大統領表彰に次ぐ二度目の受賞だそうで、一朝一夕の成果ではないことが感じられました。

二つの球場を並べて見るとアプローチはかなり異なります。インテュイト・ドームは用地選定から設計、施工まで最初からAIと技術を前提に白紙の状態から新たに描かれた球場で、kt wizは1989年に建てられた既存の球場をリノベーションしながらその上にAIレイヤーを一つずつ重ねていく方式です。出発点は違いますが、方向性は同じです。

kt wizのAIスタジアム構築プロセスと詳細な技術は扱う内容が非常に多いため、後のポストで別途もっと詳しく掘り下げようと思います。

AIが変えるスポーツ産業全体

今回の訪問を通して改めて確認したのは、AIがスポーツ産業全体の構図をかなり速い速度で変えているという事実でした。

FIFAとレノボが共同で発表した生成型AI分析プラットフォームはチームの戦術パターンを3Dアバターで再現し、コーチングスタッフに次戦の戦術シミュレーションまで提供し、ドイツ・ブンデスリーガはAWSと協業してシュートがゴールになる確率や選手の平均速度などのデータを試合中継画面にリアルタイムで表示しています。AIが試合映像を自動で分析してファンごとに異なるバージョンのハイライトクリップを自動生成するサービスも既に商用化段階にあり、AI無人中継システムのおかげで予算の問題で中継が難しかったアマチュアリーグまで年間数千試合が生中継される時代が到来しています。

まとめ

整理すると、AIはもはや中継画面の片隅を飾る付加機能ではなく、入場、決済、座席、マーケティング、コンテンツ制作に至るまで球場運営全体を貫くインフラとして定着しつつあります。

インテュイト・ドームのように最初から新築するにせよ、kt wizのように既存球場の上に段階的に積み上げていくにせよ、方向性はすでに決まっていると言えます。今この流れにどれだけ早く、どれだけ深く乗るかが今後数年のうちに国内球団間の差を分ける基準になるだろうという確信が、ゲートを実際に通り座席に座ってみて初めてより鮮明になりました。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

音声で聞く(英語音声)