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2023年に1試合平均16,128人だったチームが、スタジアムを移した翌年には25,609人を記録しました。差は9,481人です。
旧本拠地時代の平均観客数は東洋経済の報道から、2024年の平均観客数はJリーグのシーズンレビューから引いています。
新スタジアム効果という言葉で片づけるには、その後の数字があまりに長く続いています。2025年のリーグ戦平均は25,585人で、2026年の百年構想リーグ地域ラウンドでは平均26,390人、収容率92.9%を記録しました(フットボールチャンネル)。
Jリーグのクラブを調べる順番が回ってきたので、今回はサンフレッチェ広島の本拠地、エディオンピースウイング広島を選びました。
チームも今は上位にいます。Jリーグ公式の順位表(10月11日更新)で、サンフレッチェは9試合を消化して勝ち点20の2位です。
ただ、私はこのスタジアムに行ったことがありません。クラブ・市・Jリーグの公開資料と、現地で観戦した人のレビューを突き合わせた結果を書きます。
現役のマーケターとしてこのスタジアムが興味深いのは、観客数そのものより、2万8千席あまりのスタジアム1つがクラブの収益構造と街の動線まで一緒に変えてしまった点です。
この記事では、エディオンピースウイングへの行き方、チケットの買い方と価格帯、壁画などの見どころ、そしてクラブがこのスタジアムでどう稼いでいるかを順に取り上げます。アクセスとチケットの情報は、クラブの公式案内で確認しました。

写真: Bsx · 出典: Wikimedia Commons · ライセンス: CC0 1.0 · 2025年7月21日撮影。中央公園の芝生広場から見たエディオンピースウイング広島
キャプテン翼が平和を宣言する壁(ピースウォール)と、1950年の図面にあったサッカー場
名前からして由来があります。ピースウイング(Peace Wing)は「平和」と「翼」を合わせた名前で、屋根のデザインは平和都市・広島を象徴する「希望の翼」をモチーフにしています(ウィキペディア日本語版)。
相生橋の側から見ると鳥が翼を広げた形に見え、「平和の翼」と読めるという解説も日本のメディアの記事に出てきます。
2階コンコースの東側には、幅およそ8.62m、高さ2mの壁画「ピースウォール」があります。『キャプテン翼』の作者・高橋陽一さんが制作を担当し、主人公の大空翼が日本U-20代表のキャプテンとして世界ユースの大会で優勝したあとに行う「サッカー世界平和宣言」のスピーチの場面が題材です。
2023年11月16日の記者会見で計画が発表され、開業後は無料で見て写真も撮れるとJAL旅行マガジンが紹介しました。大きさは発表当時は約10mとされ、その後のレビュー媒体では8.62m×2mと紹介されています。
当時のクラブの仙田社長は、広島の復興にスポーツ、とりわけサッカーの力があったことを伝えていきたいと話しました。
壁画の写真は著作権の都合でこの記事には載せず、FUN! JAPANの記事で代えます。著作権表記は ⒸYoichi Takahashi/SHUEISHA です。
スタジアムの場所にも古い話があります。広島市が公開している資料によると、1950年5月25日作成と推定される丹下健三グループの「ピースパーク・プロジェクト」の図面には、広島城の南側に「Football Field」が描かれています。
その図面では、原爆慰霊碑から北へ伸びる軸線上にスタジアムが置かれています。戦後復興の計画の中で、この一帯にサッカー場をつくる構想があったということです。
70年余り後、同じ中央公園一帯に実際のスタジアムが建ち、原爆ドームまでは歩いて10分ほどです(Numberの現地探訪記)。

写真: Kanesue · 出典: Wikimedia Commons · ライセンス: CC BY 2.0 · 2024年8月15日撮影。元安川の対岸から見た原爆ドーム
工事中の発掘調査では、旧陸軍の中国軍管区輜重兵補充隊の施設跡の石畳とアスファルトの一部が出てきました。軍馬が水を飲んだり手入れを受けたりした場所の床材だったそうです。
市は2024年11月21日から、中央公園の馬の碑の近くで屋外展示を行っていると発表しました。スポーツ施設1つに街の近現代史がこれだけ重なっていることが、マーケターの目にはコンテンツに見えました。
試合のない日にもこの一帯を歩く理由ができるからです。
サンフレッチェ広島の紹介 — 3本の矢で付けた名前と2025年のリーグカップ優勝
クラブのルーツは、1938年の東洋工業(のちのマツダ)サッカー部です。1992年のJリーグ発足とともに、オリジナル10の1つとして名前を改めました。
サンフレッチェは日本語の3(サン)とイタリア語の矢(フレッチェ)を合わせた言葉で、戦国大名の毛利元就が3人の息子に、矢を3本束ねれば折れにくいと教えた逸話にちなんでいます(ウィキペディア英語版)。
J1優勝は2012・2013・2015年の3回、リーグカップは2022年と2025年に獲得しました(Jリーグのクラブ紹介)。2025年の決勝では柏レイソルを3-1で下しています(テレビ東京)。
2025年のリーグは勝ち点68の4位でした。3位の京都と勝ち点は同じでしたが、得失点差で下回りました(デイリースポーツの順位表)。
監督は2025年12月15日に発表されたバルトシュ・ガウルで、38歳、ドイツとポーランドの国籍を持ち、直前はRBライプツィヒのアシスタントコーチでした(Jリーグ公式の記事)。
韓国のファンなら、DFのキム・ジュソンも注目です。FCソウルからの完全移籍が2025年7月31日に発表され、サッカーウェイ韓国語版では広島所属のDFと表記されています。
観戦の動線は、原爆ドーム前の電停から歩いて10分ほどと紹介されています(Jリーグ公式ガイド)。ひとつ先に知っておきたいのがチケットです。
ある海外の観戦ブロガーは、このクラブが他のJ1クラブと違う独自のチケットシステムを使っていて、登録が簡単ではなく、一般発売の時点ですでにチケットがなかったとレビューに書いています。
エディオンピースウイングへの行き方とチケットの買い方 — クラブ公式案内にもとづく
以下の内容はすべてクラブ公式サイトの案内にもとづき、2026年10月14日に確認しました。まずアクセスです。
クラブの公式アクセス案内には、JR広島駅から徒歩約30分で、東側の歩行者デッキを使うように書かれています。駅から歩くには遠めです。
徒歩約10分と案内されているのは、広電(路面電車)の紙屋町西電停と原爆ドーム前電停、アストラムライン県庁前駅、広島バスセンターです。新白島駅はJR・アストラムラインともに約15分、JR横川駅は約20分です。
広島空港からは、リムジンバスで広島バスセンターまで約55分、大人1,500円です。
車で行く方法はおすすめしにくいです。試合日はクラブのお客様用駐車場が用意されておらず、クラブは近隣の駐車場か公共交通機関を勧めています。
広島市も市の広報記事で、Jリーグの試合などの大規模イベントの際は周辺道路が混雑するため、公共交通機関を使ってほしいと呼びかけました。自転車は、城南通りの南側、市民プール側に約1,100台分の無料駐輪場があると案内されています。
チケットはクラブ公式のチケットサイト「サンフレチケット(SANFRE TICKET)」だけで販売されます。クラブには英語の案内ページが別にあり、FAQにはコンビニ・オフィシャルストア・電話は販売窓口ではないと書かれています。
クラブ会員でなくてもログインなしで買え、有料会員は先行販売期間に先に買えます。1回の決済で買えるチケットは4枚までです。
QR電子チケットはクレジットカード決済のみで、1枚あたり110円のシステム手数料がかかり、登録したメールアドレスにQRが届きます。紙のチケットを選ぶ場合は、オンラインで予約したあと、日本国内のセブン-イレブンで支払って受け取ります。
カード決済には3Dセキュア認証が必須です。海外発行のカードが使えるかは公式ページで見つけられなかったので、問い合わせ先(ticketquestion@sanfrecce.co.jp)に先に確認するのが安全です。
価格は試合ごとに変わる変動制です。クラブの英語案内にある料金表の先行販売の最低価格で見ると、大人は上層バックスタンドのカテゴリー9が2,700円(当日3,200円)、サポーターシート自由席(立ち見)が3,000円(当日3,500円)、メインスタンド下層のプライムシートが12,000円(当日12,500円)です。
最前列は1,000円、通路側は500円が加算されますが、どの席に適用されるかは案内に書かれていません。試合ごとの価格や購入枚数の上限は、その都度告知されます。
初めて行く外国人が知っておきたいルールもあります。ビジター応援エリア(立ち見)は別にあり、先行販売で3,300円(当日3,800円)です。
クラブの英語案内は、ビジターエリア以外はホームファン専用で、相手チームを応援したり相手の色やグッズを見せたりすると退場になることがあると案内しています。日本語のFAQは、ほとんどの席で相手チームのユニフォームやグッズの着用は認めつつ応援は不可とするなど表現が違うため、ビジターエリア以外では相手の色を出さないほうが安全です。
公式販売窓口以外で買ったチケットは無効で、決済後のキャンセル・返金・変更はできません。事前に完売した場合は当日券を販売せず、残っている場合のみ試合当日にスタジアムの窓口で販売され、1枚あたり110円の窓口手数料がかかります。
未就学児は、保護者のひざの上に座ればチケットは不要です。
マーケターとしてこの購入の流れを見ると、外国人にとっていちばん高いハードルは価格より、日本語中心のサイトとカード認証、そして完売の速さだと読めます。英語の案内ページが別にあることは、来場者との接点を広げようとするサインに見えます。
ただ、私が確認した範囲では、英語のページに海外カードの案内までは載っていませんでした。先に紹介した海外ブロガーが登録が簡単ではなかったと書いた点ともつながります。
観客動員とチケット — スタジアムが小さいぶん、取りにくい席
クラブの記録で見ると、2024年のJリーグのホーム19試合の合計観客数は486,579人、1試合あたり25,609人でクラブ史上最多でした。それまでの記録は1994年の378,195人で、19試合のうち18試合が完売でした(サンフレッチェのメディアフォーラム)。
2025年はリーグ戦で合計486,116人、平均25,585人とほぼ同じ水準を保ち、全席種が完売しました(クラブの2025シーズンレビュー)。公式戦を合わせたホームの観客数は602,944人で、クラブ記録を更新しました。
2026年の百年構想リーグ地域ラウンドでは、ホームの最少観客数が25,547人(収容率約90%)で、観客数上位10クラブのうち収容率が90%を超えたのは広島だけでした。
このスタジアムの収容人数は、資料によって約2万8,400〜2万8,500席と少しずつ違います。旧本拠地は3万7千席近くあったとあるブロガーが書いていますが、クラブが意図的に小さくつくったのかは確認できませんでした。
私は結果として「完売が日常のスタジアム」になったと読んでいます。チケットがいつも足りなければシーズン会員の加入が続きやすく、実際にクラブ会員は2025年11月末で約94,000人と、1年で約22,000人増えました。
ただし、入り口のハードルも一緒に高くなります。先に触れた海外ブロガーは、成長の余地のためにスタジアムがもう少し大きくてもよかったと書いています。
一般発売の前に完売する仕組みがファン基盤を守る装置なのか、新しい観戦者の壁なのかは、今後このクラブの課題として残りそうです。
雰囲気もレビューでよく触れられます。同じブロガーは、ゴールデンウィークの晴れた日の女子チームの試合に1万2千人近くが入り、メガホンを持った応援リーダーが観客をうまく引っ張って、大きな旗が振られていたと書いています。
実際にクラブの女子チーム、サンフレッチェ広島レジーナは、2025年3月にこのスタジアムで開いたイベントに20,156人を集め、目標の1万人を2倍近く上回りました。男子チームのチケットが足りないとき、女子チームの試合やイベントが新しい入り口の役割を果たすわけです。
スペースの活用とF&B — サッカー以外で訪れた人が55万人
設備面では、すべての座席に屋根があり、観客席からピッチまでの最短距離は約8mです。座席の種類はJリーグ最多水準と紹介されていますが、資料によって42種(Jリーグ公式ガイド)か43種(スタジアムパーク公式サイト)かで表記が分かれます。
キッズルームや遊び場、接客用のラウンジも備えていると紹介されています。

写真: Kanesue · 出典: Wikimedia Commons · ライセンス: CC BY 2.0 · 2024年8月15日撮影。ピッチ脇から見た内部で、客席とピッチが近い
来場者数で注目したいのは、試合以外の利用です。クラブの集計では、2024年11月末までのスタジアムの総来場者は1,183,259人で、このうちサッカー観戦者が624,942人、サッカー以外の利用者が558,317人でした(先のメディアフォーラム資料)。
2025年には、企業の入社式・内定式、コンコースで開かれたリレーマラソンやクリスマスショー、地域コミュニティ活動「STAHUG」などで試合以外の使い方がさらに増えたとクラブがまとめています。館内のサッカーミュージアムは、2024年11月10日時点で約18,000人が訪れたとJリーグのシーズンレビューが伝えています。
食は、8つの国と1つの地域から約100種類が集まり、選手と一緒につくったコラボメニューもあるとJALの記事が紹介しています。
ただ、数字はまだ宿題を示しています。クラブの2025シーズンレビューによると、2025年のスタジアムの飲食売上の見通しは約3.1億円で、前年から約7,000万円減と書かれており、クラブはメニューを見直す方針です。
ただし同じクラブの2024年の発表では飲食売上が約4.4億円とされていて、2つの数字の基準が同じかは確認できませんでした。満員の観客がそのまま飲食売上の成長につながるわけではないことを示す例に読めますが、減少幅は断定しません。
グッズ(MD)と広告インベントリー — エディオンと10年10億円
クラブ発表ベースで、公式グッズの売上は2024年が9.4億円、2025年はユニフォームを除いた見通しで約11.6億円、前期比で約2億円増えたといいます(上のクラブ資料2件)。2つの数字の集計範囲が同じかは確認できませんでした。
スタジアムの名前には、家電量販店のエディオンが付いています。エディオンは市とネーミングライツ契約を結び、2023年8月の報道では、契約期間は2034年までの10年間、金額は総額10億円とされています。
ウィキペディア日本語版には、2024年2月1日から10年、年額1億円(消費税込み)と書かれています。ネーミングライツは、施設に企業名を付ける権利を売る契約です。
おもしろいのは、この会社が旧本拠地の名前にも2013年から付いていたことです。クラブのメインスポンサーがスタジアムの名前まで引き続き担う構造です。
また、条例上の正式名称は「広島サッカースタジアム」です。
クラブの財務と地域経済効果 — スタジアムを「運営する」クラブ
クラブはこのスタジアムの指定管理者で、指定管理は2023年12月28日に始まる予定だとウォーカープラスが伝えました。その結果、収益構造が大きく変わりました。
2024年のクラブ売上高は過去最高の約78億円(見通し)で、前年の約42億円の1.86倍でした。2025年度の決算は過去最高の83億4,700万円と報じられ、報道はエディオンピースウイングの運営2年目の成果を理由に挙げています。
純利益は4億1,300万円で、2年連続の黒字でした。クラブが2025年12月のシーズンレビューで示した見通しは約81.5億円でした。
地域への効果は、クラブが推計した数字をまず前提に置く必要があります。クラブは広島経済大学の協力を得て、2024年12月1日の札幌戦1試合の経済効果を約11億円と推計しました。
外部の検証を経た数字ではない点を踏まえて読む必要があります。スタジアム内と周辺地域の内訳は確認できませんでした。
それでも方向は明らかです。スタジアムが都心にあるので、試合前後の消費がスタジアムの中で終わらず、商店街に広がるという理屈です。
スタジアムの整備費は周辺施設を含めて約285億円で、寄付70億円超、国費約80億円、広島県と市が合わせて約100億円を負担したと報じられています(残る約35億円の出どころは報道に出てきません)。
市と大成建設を代表とするJVの設計・施工の契約額は、2021年6月時点で256億9,600万円です(ウィキペディア日本語版)。

写真: ノボホショコロトソ · 出典: Wikimedia Commons · ライセンス: CC BY 4.0 · 2026年3月14日撮影。夜にライトアップされた外観
KBO・Kリーグと比べてみると
韓国と比べるとき、まず考えたいのは所有と運営の構造です。エディオンピースウイングは市の所有施設で、クラブが指定管理者として運営を担い、運営の成果がクラブの業績に反映されます。
建設費のうちクラブの負担がいくらなのかは、私が確認した報道には出てきませんでした。はっきりしているのは、満員の観客を埋めることと、試合のない日を埋めることを、運営者であるクラブが一緒に担うという事実です。
韓国では、今年9月の全南光州統合特別市議会の常任委員会の決算審査で、164億ウォンをかけた光州サッカー専用球場が、競技場の規定が変わったあと公式戦を開けず、練習場としてしか使われていないという指摘が出たと報じられました(9月10日)。
規定がなぜ変わったのか、責任が誰にあるのかは、私が確認した範囲を超えるので断定しません。ただ、一方は開業初年度にサッカー以外の利用者が55万人を超えたと自ら集計しているスタジアムで、もう一方は使い道そのものを考えなければならないスタジアムです。
建てる前に、どんな試合やイベントを何回、誰が埋めるのかを計算する段階がどれだけ大事かを考えさせられます。
まとめると、このスタジアムの核心は大きな屋根ではなく、1年を通じて人が行き来する理由をつくってある構造にありました。壁画の前で写真を撮りに来た人、入社式に臨む会社員、リレーマラソンを走った人、チケットが取れずに帰った人まで、みなクラブが出会うお客さんです。
韓国のクラブが1つのスタジアムから学べることがあるとすれば、完売の数字より、そのお客さんをどうつなぎ合わせたかだろうと私は考えます。
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